海外出張一年生のバンコク夜遊び日記

日記

海外出張デビューを果たしたばかりの筆者が、バンコクで出会った“夜の世界”を体験記風に綴る連載。
3泊4日の短い滞在を通じて、タニヤのカラオケ、ナナプラザのゴーゴーバー、マッサージルームの裏メニュー、そして思わぬトラブルまで…。
旅行ガイドには載っていない、リアルで少し危うい「バンコク夜遊び」の光と影を、初体験ならではの視点でお届けします。
※実話をもとに構成したフィクションです。

第1話:到着の夜 ― タニヤで始まる誘惑のカラオケ

飛行機を降り立った瞬間、湿った熱気が顔を包んだ。日本の初秋よりもずっと重たい空気。

「これがバンコクか……」

初めての土地に降りた高揚感と、不安が同時に押し寄せてくる。

出張の名目とはいえ、心のどこかで「夜の街を覗いてみたい」という気持ちが抑えきれなかった。

ホテルにチェックインを済ませ、シャワーで汗を流す。フロントでもらった地図を広げていると、同僚の田中さんが声をかけてきた。

「せっかくだし、今日は“タニヤ”に行ってみるか? 日本人向けのカラオケ街だよ」

タニヤの入り口

タクシーで10分ほど。シーロム通りから一本入っただけなのに、まるで別世界だった。

ネオンの明かり、嬢の呼び込み、スーツ姿の日本人。

「いらっしゃいませ〜!かわいい子いるよ!」

「ニホンゴ、ダイジョーブ!」

通りを歩くだけで、声をかけられ続ける。

階段を上がり、あるカラオケ店に入る。ドアを開けた瞬間、場末感と華やかさが入り混じった空気が流れ込んできた。日本の演歌や昭和歌謡が響き、壁にはカラオケのモニター。奥のソファには、笑顔で日本人に寄り添うタイの女の子たち。

「指名どうぞ」

ママらしき女性が声をかける。数人の嬢が並んだ。みんな派手なドレスに濃いめのメイク。

だが、一人だけ少し控えめに笑った子がいた。

サイとの出会い

大きな瞳に、八重歯がのぞく笑顔。僕はその瞬間、高校時代の初恋を思い出した。

「こんばんは。はじめまして」

片言の日本語。それだけで心臓が跳ねる。

彼女の名前はサイ。大学に通いながら夜はここで働いているという。

「日本語…少しだけ」

「英語は?」

「ノットベリーグッド」

お互いに笑って、スマホの翻訳アプリを使いながら会話を続けた。

田中さんは別の嬢と盛り上がり、僕とサイは二人で歌を選んだ。彼女が小さな声で口ずさんだのは、日本のラブソング。発音はたどたどしいのに、真剣に歌う姿に胸を打たれた。

心の揺れ

グラスの中の氷が溶けていく。アルコールと熱気で頬が火照る。

サイは笑うたびに八重歯をのぞかせる。その仕草が、まるで過去の記憶を呼び起こすようだった。

「お客さん、初めてバンコク?」

「うん、今日来たばかり」

「楽しい?」

「楽しい…というか、不思議な気分」

正直に言えば、ただの遊びのはずだった。出張の夜のちょっとした冒険。

けれど彼女の笑顔を前にすると、心のどこかがざわついた。

タニヤの夜の終わり

「そろそろ行くか」

田中さんが席を立つ。時計を見ると、もう深夜1時を回っていた。

名残惜しさを感じながら、僕はサイに「ありがとう」と伝えた。

彼女は小さく笑って「また、来る?」と聞いた。

店を出ると、外の空気はまだ蒸し暑く、通りには別の店から出てきた日本人たちの笑い声が響いていた。

「お前、完全にハマってたな」

田中さんがからかう。僕は曖昧に笑いながらタクシーに乗り込んだ。

窓の外に流れるネオン。バンコク初日の夜は、予想以上に僕の心を揺さぶっていた。

――この街の夜に、もっと深く踏み込んでみたい。

そんな思いが、眠気を吹き飛ばしていた。